
増加する空き家への対策として、空き家対策特別措置法(いわゆる「空き家法」)の改正法が2023年12月に施行されました。これにより法規制の対象となる空き家が大幅に増え、空き家を所有する方への影響も大きくなっています。状況によっては固定資産税が最大6倍になる可能性もあり、空き家をお持ちの方はこれまで以上に注意が必要です。
本記事では、改正空き家法が空き家所有者に与える主な影響と、今後の管理や売却で気をつけるポイントを解説します。
改正空き家法とは?背景と施行の経緯
日本では近年、空き家が急増し大きな社会問題となっています。総務省の住宅・土地統計調査によれば空き家戸数は過去30年で約2倍(1993年に約448万戸→2023年に約900万戸)にも増えました 。空き家が放置されると、防災・防犯機能の低下や衛生・景観の悪化など様々な問題を引き起こすため、以前から対策が求められてきました。実際、岡山県の空き家率は16.4%と全国平均(13.8%)を上回っており、当地域でも空き家問題は深刻です 。
こうした背景から2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家法)が制定されました。しかし当初の空き家法では、倒壊の恐れがある危険な空き家「特定空家」に対する対応に重点が置かれ、行政が直接対処できるのは数万件程度の特定空家に限られていました。全国には数百万戸もの空き家がある中でごく一部しか対象とならず、十分な対応ができない状況だったため、更なる制度改正が求められていたのです。
この状況を受けて2023年12月13日に改正空き家法(令和5年法律第50号)が施行されました。改正によって空き家対策の対象範囲が広がり、空き家所有者の管理責任も以前より厳しく規定されています。
空き家法改正の主なポイント3つ
今回の法改正における主な変更点は次の3つです。
1. 市区町村による空き家活用促進の枠組み拡大
各市区町村が空き家対策に積極的に乗り出せるよう、**必要な区域を「空家等活用促進区域」**として指定できるようになりました。促進区域に指定されたエリアでは、自治体が空き家所有者に対して利活用を要請したり、建築規制を緩和したりすることが可能になります。これにより、地域の実情に合わせて空き家の活用を促す取り組みがしやすくなっています。
また、市区町村は空き家の管理・活用に取り組む民間団体(NPO法人や一般社団法人等)を**「空家等管理活用支援法人」**として指定できる制度も新設されました。指定を受けた法人は、空き家の所有者と利用希望者のマッチングや情報提供を行うなど、空き家活用の橋渡し役となります。自治体と民間が協力することで、これまで放置されがちだった空き家の利活用促進が期待されています。
2. 空き家の管理責任を強化(「管理不全空家」の新設)
従来の空き家法では特定空家(倒壊の危険な空き家)の対策が中心でしたが、改正法ではその一歩手前の「管理不全空家」も新たに規制対象に加わりました。管理不全空家とは管理が不十分で、このまま放置すると特定空家になる恐れがある状態の空き家です。
改正後は、市区町村が管理不全空家の所有者に対して改善の指導や勧告を行い、従わない場合は固定資産税などの住宅用地特例(固定資産税の減額措置)を解除できるようになりました 。住宅用地特例が解除されると後述のとおり固定資産税が3~6倍に跳ね上がるため、所有者にとって強力なペナルティとなります。また、市区町村は特定空家に対し所有者からの状況報告の徴収や職員の立ち入り調査を実施できるようになりました。所有者が報告や調査を正当な理由なく拒否した場合、20万円以下の過料が科されることも定められています 。
3. 特定空家に対する除却(撤去)措置がより迅速に
倒壊の危険が高いなど緊急性のある特定空家への対応も強化されました。従来は行政が特定空家を強制撤去するには所有者への指導・勧告・命令といった段階を踏む必要がありましたが、今にも倒壊しそうな緊急の場合には、手続きを省略して市区町村が速やかに除却等の措置を講じることが可能となりました。さらに、行政代執行による解体費用の回収手続きも強化され、悪質な放置空き家に対して自治体がより介入しやすくなっています。
なお、改正空き家法では上記のほかにも「空き家の所有者・管理者は適切な管理に努めること」「自治体などが実施する空き家施策に協力すること」といった所有者側の努力義務も新たに明記されました。行政が関与できる範囲が広がる一方で、空き家所有者に課される責務も重くなっています。空き家をお持ちの方は、今まで以上にしっかりと管理・対応する姿勢が求められるでしょう。
空き家所有者への影響大!「管理不全空家」で固定資産税が最大6倍に
今回の改正で特に空き家所有者に直接影響が大きいのが、「管理不全空家」に指定された場合の固定資産税優遇の解除です。所有する空き家が管理不全空家とみなされ、自治体から改善の指導・勧告を受けても状態が改善しない場合、土地に適用されていた固定資産税の住宅用地特例が外されます。特例が外れると固定資産税額は従来の3倍~最大6倍にも増える可能性があるため注意が必要です 。
では、住宅用地特例が外れると税金が具体的にどの程度変わるのでしょうか。簡単な例で試算してみます。
- 特例適用ありの場合: 評価額700万円・土地100㎡の空き家の場合、課税標準額は評価額の6分の1(約116万7千円)に減額されます。固定資産税の税率1.4%をかけると年間約1万6,000円の税額です。
- 特例適用なしの場合: 上記と同じ条件で特例が外れると、課税標準額は評価額そのままの700万円となります。税率1.4%では年間約9万8,000円の税額となります(※簡易な試算)。
このケースでは特例が外れることで税額が約6倍(1.6万円→9.8万円)に跳ね上がりました。評価額が高い土地や広い土地ほど増税幅は大きくなります。普段支払っている固定資産税は住宅用地特例によって大幅軽減された額であることを認識し、「管理不全空家」による特例解除がいかに負担増につながるか理解しておきましょう。
「管理不全空家」に該当する空き家の状態とは?
それでは、どのような空き家が「管理不全空家」と判断されるのでしょうか。国土交通省のガイドラインでは、以下のような建物の劣化・破損状態の例が管理不全空家の参考基準として挙げられています 。
- 建物の屋根材が変形していたり、外装材が剥がれ落ちたりしている(屋根に著しい破損や歪みがある状態)。
- 建物の構造躯体が破損・腐朽・シロアリ被害・腐食などにより劣化している。
- 室内外に雨漏りの痕跡が見られる(雨水が浸入した形跡がある)。
- 門扉・塀、屋外階段などが破損・腐朽・傾斜しているなど構造的に危険な状態。
- 敷地内の立木が放置され腐朽している、傾いて倒木の恐れがある状態。 など
上記はあくまで一例であり、実際の判断は各自治体が個別の状況を総合的に勘案して行います。ガイドラインの基準に明確に当てはまらなくても、放置すれば周囲に危険や悪影響を及ぼすと判断されれば管理不全空家に指定される可能性があります。空き家をお持ちの方は「自分の家は大丈夫」と過信せず、定期的に状態をチェックするようにしましょう。
空き家所有者が今後注意すべき3つのポイント
現在空き家を所有・管理している方は、以下の点に十分注意してください。
- 空き家を維持するなら定期メンテナンスと利活用を検討すること 空き家を今後も所有し続ける場合、特定空家や管理不全空家に該当しないよう定期的な点検・修繕と清掃、美観維持に努めることが重要です。長期間放置せず、最低でも年に数回は現地を確認し、屋根や外壁の破損・雨漏り・雑草繁茂などをチェックして必要な手当てを行いましょう。また、自治体から指導や調査の要請があった際には速やかに対応してください。さらには、空き家を放置せず賃貸に出す・リフォームして活用するなど前向きに利活用を検討する姿勢も大切です。空き家対策は今後ますます厳しくなることが予想されるため、地域の窓口で最新情報を収集したり活用方法を相談したりしながら、適切な管理を心掛けましょう。
- 更地にする前に税負担増加のリスクを考えること 老朽化した空き家を解体して更地にすれば建物にかかる固定資産税はゼロになりますが、その土地に対する住宅用地特例が使えなくなるため土地の固定資産税が大幅に上がる点に注意が必要です。更地では前述の特例(小規模住宅用地1/6など)が一切受けられず、固定資産税額は大きく跳ね上がります。現在適切に管理できている空き家であれば特例は継続して適用されるため、安易に建物を取り壊してしまわない方が得策なケースも多いです。解体してしまってから税金の負担増に気付くことのないよう、慎重に判断しましょう。
- 売却を検討しているなら早めの行動&税制特例の活用 利用予定のない空き家であれば、早めに売却を検討するのも一つの手です。特に相続で取得した空き家については一定の条件を満たせば売却益から最大3,000万円を控除できる特例(被相続人居住用財産の3000万円特別控除)があります 。また、被相続人(亡くなった方)が生前に老人ホーム等に入所していた家屋についても、条件を満たせば同様の特例が適用可能です。いずれの特例も**「相続から〇年以内に売却」**といった期限がありますので、「いつか売ろう」と思っている方は期限を逃さないよう早めに動くことが肝心です。不動産会社や税務の専門家に相談しながら、条件に合う特例は積極的に活用しましょう。
まとめ
2023年12月に施行された改正空き家法によって、空き家所有者への規制強化と管理責任の重化が図られました。空き家を放置して行政からの指導や勧告を無視していると、固定資産税が最大6倍に跳ね上がったり過料を科されたりする可能性があります。いざ慌てて空き家を売りに出そうとしても、日頃の管理状態が悪ければ買い手が付かず思うように売却できない場合もあります。結果的に、固定資産税を含む高額な維持費だけが延々とかさむ…といった事態にもなりかねません。
空き家を維持するにせよ売却するにせよ、早め早めの対策と相談が重要です。維持していく場合は安易に更地にせず、まずは自治体の窓口に相談して活用策を探ってみましょう。売却を検討する際は、前述の特例適用期限に注意しながら早めに信頼できる不動産会社に相談することをおすすめします。
なお、弊社は岡山県岡山市で不動産の売買・賃貸を行っている会社です。岡山市および近郊エリアの空き家に関するご相談や売却のご依頼を随時承っております。 空き家の扱いにお困りの方はぜひお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料で、無理な勧誘等は一切行いません。地域密着の不動産会社として、皆様の空き家問題解決を全力でサポートいたします。