
親が60代を過ぎ、これから先の暮らし方や財産の整理を考え始めると、「長年住み慣れた自宅をできれば子どもに引き継ぎたい」と考える方も多いでしょう。親子間で自宅を引き継ぐ方法としては、贈与(無償であげる)か売却(有償で売る)という2つの手段があります。親子とはいえ、法律上は他人同士の売買と同じように不動産取引を行うことが可能です。ただし、親子間だからこそ気を付けるべきポイントや通常の取引とは異なる税金の問題もあります。
本記事では、親子間で家を売買するときの流れや贈与と売却のメリット・デメリット、そして**税金面で注意すべき点(みなし贈与など)**について、岡山の不動産会社「Torus不動産合同会社」の視点も交えて解説します。大切なご自宅を円満にお子さんへ引き継ぐために、ぜひ参考にしてください。
親子間でも不動産売買はできる?基本的な仕組み
結論から言えば、親子間でも通常の不動産売買と同じように家を売買することができます。 親から子へ自宅を渡す場合、「無償であげる(贈与)」方法と「有償で売る(売却)」方法の2種類があります。贈与は双方の合意のもと無償で財産を渡す契約で、一方の売却(譲渡)はお金を支払ってもらうことで成立します。どちらの方法でも親子間で名義を変更すること自体は可能ですが、それぞれ必要な手続きや発生する税金に違いがあります。
「身内同士でお金のやり取りをするのは抵抗がある…」という方もいるかもしれません。しかし、贈与と売却では課税される税金が異なり、状況によっては売却のほうが税負担を軽くできるケースもあります。安易に贈与を選ぶ前に、ぜひ売却という方法も検討してみましょう。また、後述するように売却する際には税務上「贈与とみなされる」ケースを避ける工夫も必要です。
**ポイント:**親子間で家を売る場合でも契約書の作成や登記変更など正式な手続きを踏む必要があります。親子だからと口約束で済ませてしまうと、後からトラブルになる恐れがあります。大きな財産の受け渡しだからこそ、親子間でもきちんと契約を交わし、第三者にも証明できる形で進めることが大切です。
親子間売買の進め方と手続きの流れ
親族に家を売却するときも、基本的な手続き自体は一般的な不動産取引とほぼ同じです。ただし買い手を一から探す必要がないため、不動産会社による広告や内見対応などの手間が省けてスムーズというメリットがあります。ここでは、親子間で不動産売買する場合のおおまかな流れを確認しましょう。
親子間売買の基本的な流れ(全体の手順)
- 売却価格の決定 – まず家や土地の適正な売却価格を決めます。いきなり子どもに「いくらで買う?」と聞かれても困るので、親の側である程度の目安を把握しておきましょう。価格の決め方としては、インターネットで周辺の取引相場を調べたり、市町村から届く固定資産税の課税明細に記載の「固定資産税評価額」を参考にしたりする方法があります。また、国税庁の公表する「路線価」や国土交通省の「公示地価」など公的な価格指標も目安になります。不安な場合は、不動産会社に査定を依頼したり不動産鑑定士に正式な評価を出してもらったりするのも有効です。価格設定は後述する「みなし贈与」を避けるためにも非常に重要なステップです。
- 契約方法の検討・媒介契約の締結(任意) – 買主が自分の子どもであれば、不動産会社を介さず直接取引(個人間売買)することも可能です。すでに買い手が決まっているので必ずしも仲介業者に依頼する必要はなく、仲介手数料も節約できます 。ただし、個人間で契約書や必要書類を全て用意するのは大変なので、司法書士や行政書士に契約書作成を依頼することもできます。もちろん、希望すれば信頼できる不動産会社に間に入ってもらうことも可能です。その場合は仲介手数料が発生しますが、契約手続きやトラブル対応の安心感を買うという意味では検討しても良いでしょう。
- 購入資金の確認 – 子どもが親の家を買うための資金計画を立てます。十分な貯蓄があれば理想ですが、高額な不動産では住宅ローンを利用するケースも多いでしょう。ただし親子間の売買は一般の取引に比べてローン審査が厳しく、金融機関によっては親族間売買への融資自体を断るところもあります 。これは、親子間取引が実質的な贈与でないか、借りたお金が住宅取得以外に流用されないか、といった点を銀行が慎重に見るためです 。また他の兄弟姉妹がいる場合、親子間売買が相続トラブルに発展するリスクにも配慮して銀行が消極的になることがあります 。そのため、子どもがローン利用を考えるなら事前に金融機関へ相談し、親族間売買に対応してくれるか確認しておくことが大切です。
- 売買契約の締結 – 売主(親)と買主(子)の間で不動産売買契約書を取り交わします。親子間でも契約書を作成し、双方が署名・捺印をして正式に契約を結びましょう 。契約書には収入印紙の貼付が必要です(売買代金に応じた額)。また、通常の取引では宅地建物取引士による重要事項説明が行われますが、ローンを使う場合はこの書類が求められることがあるため、不動産会社に依頼する場合は注意しましょう 。契約内容として、売買代金や支払い方法・時期、物件の引き渡し時期、付帯設備の扱い、固定資産税等の清算方法、契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の扱いなどを決めて記載します。親子間では「支払いはゆっくりで良いよ」「細かいことは無しにしよう」といった緩い取り決めにしがちですが、後日の誤解や紛争を防ぐため細かな点まで文章にして残すことが大切です。
- 決済と物件の引き渡し – 契約を結んだら、取り決めた方法で売買代金の支払い(決済)を行い、不動産の引き渡しをします。支払いはできるだけ銀行振込等で行い、通帳の記録が残る形にすると安心です 。現金手渡しはトラブルのもとになるので避けましょう。子どもから親へ全額の支払いが完了したら、鍵の引き渡しと同時に所有権の移転登記手続きに進みます。所有権移転登記は法律上必須ではありませんが、登記を完了してはじめて正式に名義が子どもへ移ります。登記申請には書類準備や法務局での手続きが必要です。必要書類として売主・買主の印鑑証明書や権利証(登記識別情報)、固定資産評価証明書など多数あります。不慣れな場合は司法書士に依頼するのが一般的です。ローンを使う場合は融資の実行日に決済と引き渡し、抵当権設定まで同日に行う必要があるため、金融機関と日程調整をして進めます 。
- 各種税金の申告 – 親子間であっても不動産を売買した場合、通常の売却と同様に税金の申告が必要になる場合があります。売主である親の側では、売却で利益(譲渡所得)が出た場合に所得税・住民税の確定申告が必要です(翌年の2~3月に申告)。買主である子の側では、不動産取得税(取得後に都道府県から通知)や登録免許税(登記時に納付)などの負担が発生します 。なお、売却益に対する3,000万円特別控除など本来利用できる税優遇策も、親子や夫婦など特別な関係間の売買では適用できないケースがあるので注意しましょう (詳しくは後述)。
以上がおおまかな流れです。身内への売却は買い手探しの時間は省けますが、契約書の作成や登記・税務などの事務手続きは通常と変わらず必要です。余裕を持って準備し、わからない点は専門家に相談しながら進めましょう。
子どもに家を売却するメリット
親子間で自宅を売買することには、以下のようなメリットがあります。
- 生前に確実に名義を子に移せる安心感: 親が元気なうちに家の所有者を子どもに変えておけば、親の死後に「誰が家を相続するか」で揉める心配がなくなります。特に他に兄弟姉妹がいる場合、相続で不動産を分割するのは難しいため、生前に特定の子へ売却しておけば相続財産から外すことができ、財産分与の争いを回避できます(※ただし他の相続人には事前によく説明し同意を得ておくことが大切です)。
- 税金面で贈与より有利になるケースが多い: 詳細は後述しますが、一般に不動産の贈与税は税率が高く負担が重いです。それに比べ、売買にしておけば親の側は譲渡所得税(売却益に対する課税)のみで済み、適正な価格で売れば子の側に贈与税はかかりません。特に親から20歳以上の子への贈与(特例贈与)の税率は通常より低いとはいえ、課税額は譲渡所得税より高額になりがちです 。多くの場合、贈与より売却のほうがトータルの税負担を抑えられるでしょう。
- 愛着ある我が家を子どもに受け継いでもらえる: 親にとって思い出の詰まった家を、赤の他人に売却するのは寂しいものです。子どもに買ってもらえれば、愛着のある家がそのまま家族に守られることになります。親子間売買は純粋な経済的メリットだけでなく、心理的・情緒的な安心感を得られる点も大きなメリットと言えるでしょう。
- 取引がスムーズに進めやすい: 買主探しの必要がなく、内見対応や広告宣伝も省略できます。また、取引相手が自分の子どもなのでコミュニケーションも取りやすく、条件交渉なども柔軟に決められます 。一般の売買のように見知らぬ相手とのやり取りに気を遣う必要がないため、精神的な負担も軽減されるでしょう。
以上のように、親子間で家を売ることは相続対策や精神的安心の面で大きなメリットがあります。では一方で、注意すべきデメリットやリスクにはどんなものがあるでしょうか。
子どもに家を売るデメリット・注意点
親子間売買にはメリットがある一方、以下のようなデメリットや注意点もあります。
- 取り扱ってくれる不動産会社が少ない: 親子間の売買は市場に出すわけではないため、不動産会社にとって仲介手数料が得られにくい取引です。そのため、親族間売買の仲介業務を積極的に行っていない会社も多いのが実情です 。自力で契約手続きを進める自信がなければ、親族間取引をサポートしてくれる専門家(司法書士や一部の不動産会社)を探すのに時間がかかるかもしれません。ただし、当社 Torus不動産(岡山市) のように親族間売買の相談にも対応している業者もありますので、まずはお問い合わせいただければと思います。
- 子ども側の住宅ローンが利用しづらい: 前述の通り、親子間の売買は銀行ローンの審査ハードルが高めです 。金融機関から見ると、親子間取引は形式だけの売買で実際には資金が親に戻るのでは?と疑われたり、他の相続人とのトラブルリスクが懸念されたりします 。このため「親子間売買は融資不可」とする銀行もあり、借入できても頭金を多く求められるケースもあります。子どもが資金不足で購入できないと計画自体が成立しませんので、事前に資金計画を十分相談することが重要です。
- 税制上の特例が使えない場合がある: 親子・夫婦など特別な間柄での不動産売買では、税金の優遇措置が適用外になるケースがあります 。例えば、親が自宅を売却する際によく使われる**「居住用財産の3,000万円特別控除」は、売却相手が同居の親族などの場合は適用されません 。このほか軽減税率の特例**(長期所有の自宅売却に適用される税率優遇)や買い替え特例、売却損が出た場合の損益通算なども親子間だと受けられない場合があります 。つまり、本来なら税金ゼロで済むはずの親の譲渡所得にも課税されてしまうケースがあり得る点に注意が必要です。
- 贈与とみなされるリスクがある: これが親子間売買最大の注意点ですが、売買契約にしたつもりでも税務署から**「実質は贈与だ」と判断されてしまうリスクがあります。特に相場より不当に安い価格で子どもに売った場合、差額分が贈与とみなされて子どもに贈与税が課税される恐れがあります (このポイントについては次の章で詳しく解説します)。また、形式上は売買契約書を交わしていても実際にお金の授受が行われていなければアウト**です。後から「やっぱりお金はいらないよ」と支払いを免除したりすると、最初から無償譲渡したのと同じ扱いになります。身内同士だからと油断せず、契約どおりの金銭授受を確実に行うことが大切です。
- 親族間だからこその人間関係トラブル: 親子間で当人同士は合意していても、他の兄弟姉妹や親族が後から不満を持つケースがあります。「長男だけずるい」「財産を生前に移して相続税対策したのでは?」などと疑われると、親族間の信頼関係にヒビが入ることもあります。また、高齢の親が判断能力が低下した状態で契約を結ぶと無効になる可能性もあり、周囲から「騙して子名義にさせたのでは」と勘繰られることもあります 。こうした事態を避けるため、他の家族にも事前に事情を説明し納得してもらう、親が元気で意思がはっきりしているうちに進める、といった配慮も必要でしょう。
以上のように、親子間売買には金融・税務・人間関係それぞれの面で注意すべき点があります。しかし、適切に手続きを踏めばリスクを軽減しつつメリットを享受することが可能です。次に、特に重要な「売却と贈与のどちらを選ぶべきか」という観点で、両者の違いを比較してみましょう。
贈与と売却、どちらがお得? – 税金面を中心に比較
親から子へ自宅の名義を移す方法として、贈与と売却のどちらを選ぶべきかは悩ましいポイントです。それぞれ手続きや税金の仕組みが異なるため、メリット・デメリットを理解して有利な方法を選ぶことが重要です。
贈与する場合の特徴(メリット・デメリット)
贈与とは、親から子へ財産を無償で「贈り与える」ことです。手続き的には売買よりシンプルで、親子の合意があれば名義変更(所有権移転登記)を行うだけで完了します。子どもに購入資金がなくても実行でき、金融機関のローン審査も不要なので、話し合いさえつけば迅速に進められる点はメリットです 。
しかし最大のネックは贈与税の負担です。日本の贈与税は年間110万円までは非課税枠がありますが、それを超える贈与額には高い税率が課せられます。例えば不動産を贈与する場合、まず土地と建物の評価額を算出し(固定資産税評価額などを基に計算)、その合計額から基礎控除110万円を引いた残りに対して贈与税率を当てはめます。贈与税率は累進課税で金額が大きいほど税率も上がり、最大で55%にもなります。
親から20歳以上の子への贈与は「特例贈与財産」とされ、税率が一般贈与より低めに設定される優遇があります 。具体的には、特例贈与のほうが各税率区分で概ね数%ずつ低い税率が適用されます。しかしそれでも高額の不動産の場合、贈与税額は非常に大きくなりがちです。たとえば評価額2,000万円の家を贈与するとしましょう。この場合、110万円控除後の約1,890万円に対し特例税率を適用すると、概算で数百万円規模の贈与税が発生する可能性があります(正確な税額は金額帯によりますが、特例税率でも20~30%超の税率が課されます)。
このように、贈与は手軽な反面、税金面でのデメリットが大きいと言えます。親の生前に名義を子に移す方法としては手っ取り早いものの、課税コストが高い点を十分認識しましょう。
売却(売買)する場合の特徴(メリット・デメリット)
**親子間で売却(売買)**する場合、手続きは前述したように契約や金銭の授受が発生する分、やや煩雑です。親子とはいえ売買契約を交わし、実際にお金を用意し支払ってもらう必要があるため、贈与に比べると段取りに時間と手間がかかります。また、子どもに資金力が無いと成立しない点や、ローン利用時のハードルもデメリットに挙げられます 。
しかし税金の負担という点では売却のほうが有利なケースが多くなります。親子間売買の場合、適正価格で取引していれば子どもに贈与税はかかりません 。親には譲渡所得税が発生する可能性がありますが、これは売却益(利益)に対してのみ課税されるのがポイントです 。長期間所有した不動産であれば長期譲渡所得として税率約20%(所得税15%+住民税5%程度)です 。仮に親が購入時より高値で売却して利益が出た場合でも、その利益額が3,000万円以下であれば本来は特別控除で税ゼロにできる枠でした(※先述のとおり親子間ではこの特例は使えない可能性があります)。特例が使えない場合でも、利益に対して20%前後の課税で済む計算です。もし親が長年住んでいた自宅を大幅に値上がりして売却したとしても、贈与税ほど極端に高率ではありません。
また、親が家を売却する際に利益が出なければ譲渡所得税はかかりませんし、むしろ安く売れば売るほど親の譲渡税負担は減ります(※ただし安くしすぎると子に贈与税がかかる点に注意)。一方の贈与税は評価額に対して容赦なく課税されます。極端な言い方をすれば「売却なら利益部分にしか課税されないが、贈与は財産そのものに課税される」違いがあるのです 。財産価値が大きいほど、この差は無視できなくなります。
総合的に見て、親子間で自宅を引き継ぐには売却という形を取ったほうが税負担を抑えやすいケースが多いといえます 。もちろん各家庭の状況(親の購入時価格や他の資産状況、子どもの資金力など)によりますので、一概に必ず売却が有利とは言い切れません。しかし「贈与税か譲渡所得税か」という比較では、多くの場合で譲渡所得税のほうが低負担に収まる傾向があります。
なお、贈与税には相続時精算課税制度という特例(一定額まで贈与税を非課税にできる代わりに相続時にまとめて清算する制度)もありますが、これは適用要件や将来の相続税との関係が複雑です。本記事では割愛しますが、大口の生前贈与を検討する場合は税理士等の専門家に相談すると良いでしょう。
ひとことアドバイス: 「売却」とはいえ親子間のお金のやり取りなので、最終的に親が受け取った代金をまた子に援助したり、住宅購入資金として贈与したりするケースもあるかもしれません。しかしその場合も税務上は別の問題(贈与税)が発生します。親子間売買ではお金の流れも含めて一貫したストーリーを作ることが大切です。後になって不自然なお金の動きがあると税務署に疑念を持たれかねませんので注意しましょう。
「みなし贈与」に要注意!価格設定と対策
前述のように、親子間で不動産を売買する際は**「みなし贈与」(低額譲渡の贈与扱い)**に特に注意が必要です。みなし贈与とは、本来は売買契約だとしてもその価格が低すぎる場合に「実質的に財産を贈与した」とみなされて贈与税が課される仕組みです 。親族間の不動産取引で税務署が真っ先に注目するポイントと言っても過言ではありません 。
みなし贈与と判断されるのはどんなとき?
税法上、「著しく低い価額」で財産を譲り受けた場合は、その差額分を贈与とみなす規定があります 。では**「著しく低い価額」とはどの程度かが問題になりますが、明確な基準は示されていません 。ケースバイケースで判断されますが、判例などから一つの目安とされるのは「時価の80%以上」であれば適正**というラインです 。実際、親族間売買で路線価(概ね時価の80%)相当の価格を付けたケースで、「80%程度であれば著しく低い価格ではない」という司法判断が示された例があります 。このため「市場価格のおおむね8割以上で売買していればみなし贈与とされる可能性は低い」と考えられています 。
逆に言えば、時価の半額程度など極端に安い価格設定だと非常に危険です。どのくらい低ければアウトか明言はできませんが、常識的な範囲を大きく逸脱した安値では税務署から目を付けられます。例えば市場価格4,000万円相当の家を子に1,000万円で売った場合、差額3,000万円は贈与とみなされ多額の贈与税を請求されるでしょう 。実際に「親子間だからと格安で売買した」「代金をもらわず名義だけ変えた」といった事例で、後から贈与税を課税されたケースが報告されています 。
みなし贈与を避けるためのポイント
適正価格で売買することが最大の防御策です。 前述のとおり、一つの目安は時価の8割以上ですが、時価自体を客観的に把握するのは素人には難しいものです。そこで頼りになるのが公的な評価額や専門家の査定です。
- 固定資産税評価額や路線価を参考にする: 固定資産税評価額は毎年送付される納税通知書で確認できますし、路線価は国税庁のウェブサイトで公開されています。路線価は時価の約80%とされるため、路線価評価額以上の価格であれば概ね安全圏といえます 。まずは現在の評価額を調べ、その数字を一つの下限目安に設定しましょう。
- 不動産会社の査定や鑑定士の評価を活用: 地元の不動産会社に依頼すれば、近隣の取引事例などを踏まえた査定価格を算出してくれます。また、不動産鑑定士に正式な鑑定評価を依頼する方法もあります 。費用はかかりますが、税務署への説得力という意味では鑑定評価額があると安心です。「第三者の評価でこれだけの値段がついている」と示せれば、価格の妥当性を裏付ける材料になります。
- 売買契約書を作成し代金支払いの記録を残す: みなし贈与を疑われないためには、単に価格設定だけでなく取引が正当に行われた証拠を残すことも重要です。 にもあるように、契約書や領収証、銀行振込の記録など客観的なエビデンスがあれば税務署も不正な贈与とは判断しにくくなります。現金手渡しではなく必ず銀行振込など記録が残る方法で支払い、契約書には支払い方法・日付を明記しましょう 。
- 名義変更だけ先行するのはNG: 親が「とりあえず名義だけ子に変えておこう」と考えることがありますが、代金のやり取りなしに名義を移すのは完全に贈与扱いとなります 。後から弁解しても通用しませんので、「売買にするなら必ずお金も動かす」ことを徹底してください。
以上の点に気を付ければ、親子間売買でも過度に恐れる必要はありません。適正な取引であることを示し、税務署への説明ができるように準備しておけばみなし贈与は回避できます。それでも不安な場合は、事前に税理士に相談しておくのも良いでしょう。ケースによっては売却ではなく相続時に遺贈する(遺言で子に相続させる)ほうが税務上有利なこともあります。専門家と一緒に最適な方法を検討することをおすすめします。
まとめ – 親子間での不動産取引を成功させるために
最後に、本記事の内容を簡単にまとめます。
- 親子間でも家や土地の売買は可能。 親から子への名義変更方法には贈与と売却の2種類があり、それぞれ手続きと税金の仕組みが異なる。
- 子どもに家を売却することにはメリットが多い。 親が生前に名義を移せる安心感が得られ、相続トラブルの防止にもつながる。また、税金面でも贈与より有利になるケースが多く、何より愛着ある自宅を我が子に守ってもらえるという心理的な満足感がある。
- 親子間売買には独特の注意点もある。 一般的でない取引形態のため取り扱う不動産会社が少なく、住宅ローンの審査も通常より厳しい傾向にある 。さらに、親族間売買では通常受けられる税制優遇(3,000万円特別控除等)が使えない場合があり注意が必要 。
- 税金面では売却のほうが贈与よりお得になりやすい。 贈与税は高率で課税されるのに対し、売却なら利益部分への課税(長期なら約20%)で済むため、多くの場合は贈与より税負担が軽減できる 。ただし子どもに資金が必要・手続き煩雑などのデメリットもあるため、家族の状況に応じて判断する。
- 「みなし贈与」を避けることが最大のポイント。 相場とかけ離れた安値で売ると差額に贈与税が課される恐れがある 。目安として時価の80%以上の価格で取引し、契約書や支払い記録をしっかり残すことで税務署からも正当な売買と認められやすくなる 。
親子間での不動産売買は通常の売却と比べて考慮すべき点が多岐にわたります。しかし、大切なご家族への財産承継を円滑に進める手段として有効なのも事実です。今回解説したポイントを踏まえて、メリット・デメリットを比較検討し、最適な方法を選んでください。必要に応じて不動産会社や税理士など専門家の力も借りながら、ぜひ円満でスムーズな親子間取引を実現していただければと思います。
※当社Torus不動産合同会社(岡山市北区)では、親子間売買を含む不動産取引全般のご相談に応じております。 岡山エリアで「親族に不動産を譲りたいがどうすれば…」とお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。専門知識を交えてサポートいたします。